実証事業を終えて、苦労や達成感など、取り組み全体のご感想はいかがでしたでしょうか?
寒竹 全国的に衛星データを活用した現地確認を実施している自治体が増加しているなか、飯塚市としてはどのような成果を得られるか不安もありましたが、予想以上の成果が得られ安堵しています。
村瀬 実証事業としては約半年に渡る取り組みでしたが、その間、デジオン様側から「自分たちの仕事を改善しよう」という熱意が伝わってきたので、アプリの完成度を見たときは、感動しましたね。
今回、衛星データ利活用の実証へ取り組まれた経緯を教えてください。
寒竹
経営所得安定対策や多面的機能支払交付金などにおける「現地調査」の時間的、体力的な負担が年々課題となっていました。
過去には、ドローン等の活用も検討していましたが、自治体職員による運用に懸念があったため導入に踏み切れなかった経緯があります。
しかし今回は、衛星データ活用という提案を受け、これであれば運用面も含めて課題解決できるかもしれないと考え実証に参加させていただきました。
今回実証の対象とした農地調査とは、どのような目的で、どういった作業を行うものなのでしょうか?
村瀬
大きく分けて、3つの作業があります。
まずは、現地調査用地図の準備です。農地台帳システムから本年度の調査対象の農地をマーキングした地図データをPDFで作成し、エリアごとにA0サイズで印刷するのですが、これだけで数日かかる作業になります。
次に、数班に別れて現地調査を行います。農地に赴いて、主に水稲(米)や農地の荒廃状況を目視確認し、現地調査用地図に該当する記号を手書きで記録していきます。
最後に基幹システムへの入力です。現地調査から帰庁後、虫眼鏡を使って地図上の記録を確認しながら、いったんエクセル表に記録したあと、市役所の基幹システムへ転記・入力します。農地の数にもよりますが、一つの地区の入力だけで半日〜1日かかることもあります。
従来手法での農地調査における課題は何だったのでしょうか?
村瀬
調査員の体力的な負担が大きいことですね。
車で移動しながらの記録作業を行いますが、紙の地図に印字された地番の文字が小さくて判読不能だったりと、不便を強いられる場面も多く、非常に体力と集中力を要する作業になります。
個人的に「乗り物酔い」が激しいこともあり、長時間の車移動しながらの調査は極めて辛いですね。
寒竹
とくに、7〜8月など炎天下のなかで調査した場合は、疲労困憊で他の業務をする気力がなくなるほど消耗します。
休憩するほど調査の終了が遅くなってしまうため、多少無理をしてでも1日で終わらせることもあります。
実証事業として導入した、農地調査支援アプリケーション「イナリス」を活用した農地調査ではどのような作業フローになったのでしょうか?
寒竹
作業フロー全体を大幅に省力化できました。
まず、地図作成が不要になり、数日を要していた現地調査前の準備が大幅に削減されました。
さらに、衛星データ解析により、調査対象の半分以上が現地確認不要になりますので、行く前の気持ちもかなり楽になりましたね。
また、今後「イナリス」上に調査結果のデータを蓄積していけば、現場でも、過去の膨大なデータをタブレット1つで参照できるようになるので、現場判断の精度の向上も期待できそうです。
今回の実証では、衛星データ解析によって約6割の圃場が現地調査を省略できたことで、調査にかかる時間は約80%削減され、従事者の心理的負担も約50%軽減しました。実際に業務を終えられたとき、あるいは数字としてこの結果をみたときにどのように感じられましたか?
寒竹
実証事業にて「イナリス」を導入しての現地調査を終えたときは、体感としても「楽になった」と感じていましたが、後日、改めて数字を見て驚きました。
とくに、心理的な負担は自分で確認できないものなので、対外的に説明する際のデータとして説得力があると感じています。
村瀬 かなり負担が軽くなった体感もあったので、実証結果の数字を見た時は、その通りだなと思いましたね。
今回確認できた業務改善効果によって、農地調査やその他の農林振興課の業務はどう変わりそうでしょうか?
寒竹
農地調査業務そのものが省力化できることはもちろん、「イナリス」の現地写真の記録を活用することで他事業(多面・中山間など)との共有も容易となるため、課全体の事務負担の軽減が期待できます。
また、農地調査の実作業以外の日々の応対作業も効率化できると思います。
農林振興課では、現地調査結果に関する問い合わせへの応対も行っていますが、これまでは、農地の場所や作付け状況を聞かれた際、地図を印刷して説明したり、現地に目標物がない場所の説明は、非常に苦慮していました。
イナリスを使えば、表示されている地図上から農地をタップするだけで調査記録が参照できるので、タブレット画面を見せるだけで「ここの作付け状況は...」と即座に説明・共有が可能になる点も、現地調査時期以外の日々の対応業務を省力化できる点で非常にありがたいです。
イナリスの特徴である「衛星画像解析による作付け自動判定」について伺います。「自分が行く前に、すでに大半を終わらせてくれている」という状況は、業務の進め方や心理面にどのような変化をもたらしましたか?
寒竹
調査対象が量的に約6割ほど削減されることで、調査ルートや調査スケジュールを組む際の苦労は激減しましたね。
農地調査は天候などにも大きく左右されるので、以前は「今日あそこに行って、帰りにあそこも…」と常に時間に追われ、調査スケジュールの管理に苦労していましたが、調査対象が絞り込まれたことで心理的にも余裕が生まれたと感じています。
イナリスの特徴である「生成AIによる超解像化された衛星画像」について伺います。既存の衛星画像や紙の地図と比べて、どう違い、どのような効果があったと感じますか?
村瀬
すごく見やすく感じました。
現地調査では、「現地で目視している圃場」と「地図上の圃場」を一致させることが難しい場面が多々ありますが、「超解像化画像」では圃場の区切り(畔など)がくっきり見えましたし、紙の地図と違って自由に拡大縮小できるので、判断がしやすいと思います。
イナリスでは表示する地図の種類をいくつか選べますが、実証中はほぼ「超解像化画像」を使用していましたね。
今回、開発段階で当社エンジニア/デザイナーが現地調査に同行させていただき、業務観察や直接お聞き取りしたご意見をアプリに反映しています。現場の要望が反映されて使いやすくなったポイントや、操作の快適さについて感心いただけたポイントがあれば教えてください。
村瀬
従来手法での調査で苦労していた部分が、機能に反映されていると思います。
具体的には、「現在地表示機能」ですね。これまでスマホと紙地図の2つを使って現在地や圃場の特定を行っていましたが、これがタブレット1つで済むようになりました。
そして「現地写真の登録機能」もあるので、農地の状態(駐車場へ転用・目的農地へは行き止まりなど)を記録することで、次年度以降の調査をさらに効率化できそうです。
UIも、ボタンが押しやすく反応が速いので、車で移動しながらの記録作業も中断されることがありませんでした。利用環境に配慮されているなと感じますね。
また、農地は分筆など地番が複雑なものが多いのですが、正確に農地の地番を載せていただいている点もありがたかったです。
成果の一方で、実証事業を通して見えてきた課題もあるかと思います。自治体における衛星データの利活用に関して、今後の課題と感じたところはありましたか?
神原
国が公表している令和9年度からの水田政策見直しのなかで「農地の地目に問わず作物ごとの生産性向上に対する取組」にシフトしていくという方針があり、対象農地の拡充が想定されています。
自治体としては農地情報の収集、事業者とのデータの共有について検討をすすめていく必要があります。
交付金対象作物が変われば、自治体が確認すべき項目も変わりますので、利用するサービスも含めて対応を考えていかないといけませんね。
他自治体も含めて衛星データの利活用を進めるために、国や県に対して期待することはありますか?
寒竹
現時点では、単独自治体で導入するには費用負担が大きいので、導入にあたっては広域連携(複数の自治体や協議会で衛星データを共同購入するなど)が必要になると考えています。
その場合、各自治体の要望を取りまとめて仕様(衛星データ解析によってどの作物を判定するかなど)を作り上げることが難しいため、国や県の主導のもと仕様の標準化が行われるのが理想的ですね。
また、基礎自治体(市町村)では「費用対効果が確実でないと手が出せない」傾向があるので、国や県の支援体制(予算化)があると、自治体側もトライしやすくなると思います。
衛星データが自治体の農地調査だけでなく、農業生産者側や防災など別用途でも使えそうだと感じた分野があれば、教えて下さい。
寒竹 衛星データに関しては、たとえば、災害時の状況把握(前後比較)、道路や公園の整備状況の確認、庁内全体での地図データ共有など、農業以外でも「見に行く」業務全般に利用できるのではと感じました。
ありがとうございました。最後に、衛星データの利活用にご関心のある自治体様にメッセージがあればお願いします。
寒竹
イナリスに関しては、業務効率化に間違いなく繋がると思います。
一方で、今回の導入にあたっては、前段階として自治体側でのデータ整備(農地台帳情報と地図情報の紐付けなど)は必要になるため 「簡単に明日から使える」わけではありません。
事業者側と自治体で「何ができて、何ができないか(データが出せるか)」を密にすり合わせることが成功の鍵になると考えています。
神原
飯塚市では元々かなり細かく農地調査を実施していてコストが掛かっていたため、今回の「イナリス」を導入した実証事業においては、かなり高い削減効果を示すことができました。
組織の規模が違えば、また違った新たな効果や活用の道筋が見えてくるのではと期待しています。
衛星データで農地全体を俯瞰することによって、新たな気付きを得たり、今までできなかった管理ができるようになるのではないでしょうか。